NEWGRAPHY FUKUOKA ART BOOK EXPO2021

BACKGROUND

紙上に広がる無数の表現

ライフスタイルの多様性が喧伝されるなか、社会生活上のあらゆる場面で既成概念にとらわれない選択が可能となりつつある昨今。社会システムのデジタル化にともない、人々の関心事(知りたい情報)はその深度や正確性はさておき、ほぼ思いどおり得られるようになりました。性別も働き方も決済も戸籍も、もはや個人の自由な選択に委ねられる現代、ひるがえって「表現」に着目してみると、言うまでもなく自由度は増しています。政治や宗教、歴史など、背景がもたらす重しはあるにせよ、誰もがSNSを活用した記事や動画ツールを駆使できる通信環境は、個人が新しい表現を発信したり享受したりする機会をつくり出しています。それはアートシーンにおいてもしかり。年齢・性別・国籍などを飛び越え、さまざまなカタチをまとった表現やアートが絶えず生まれています。そのうねりには、匠や有名作家の美術や作品がもつ気高き芸術性との境界すらもあやふやにするエネルギーさえ感じられます。いわばファッションのように、アートにも「まったく新しい何か」を求める表現者、そして受け手が身近に共存しているという事実。また一方で、文字や写真、グラフィックなどあらゆる表現手段において、それらアウトプットをセット(集約)する方法の一部には、意外にも積極的に「紙(=本)」に回帰する傾向もあります。加えて、本を単に間に合わせの用紙でまとめるのではなく、サイズや紙質、装丁、さらには印刷にいたる「物体的」な世界観までも表現の一つに組む流れが少なからず存在するのは見逃せない点です。近年、欧米や東アジア圏を中心に世界各地で開催される「アートブックフェア」はその流れの前向きな証でもあります。そこで今回、私たちは福岡の街をフィールドに、知名度のみに依存しない国内外のアーティスト(クリエーター)らの作品を「本(=アートブック)」という形式で募り、多くの市民が各所を巡りながら、表現者の豊かな創造力に触れられる時間と場所をつくろうと考えました。

街の“体温”を残したい

福岡は街の規模に照らして本屋の数はそれほど多くありません。まして、ZINEやリトルプレスといった個人発の紙媒体やストリートから生まれるアナログ表現を常に目の当たりできる場所は極めて限定的といえるでしょう。今この瞬間にも創造される無数の表現に対する受け皿という面では、作品の展示が一挙にかなう場の必要性を感じます。個人単位のアート作品が一堂に会する定期イベントを通して、「アートブックは楽しい」「こんなポップカルチャーが身近に!」などと、市民一人ひとりの潜在的な街への期待や楽しみにつなげたい。また、再開発で変わりゆくFUKUOKAにあって、ローカルとしての輪郭を維持していくことは、街の「個性」や「体温」を保つという点でも決して無意味ではないと思っています。